多嚢胞性卵巣症候群について
多嚢胞性卵巣症候群は、Polycystic ovary syndromeの略でPCOSと呼ばれることもあります。超音波断層検査で片方の卵巣に2~9mm程の小さい卵胞がたくさんみられます。PCOSを発症すると、排卵が安定して起こらず、あらゆるホルモン異常が起こります。排卵がスムーズでないため、月経不順や不妊症などを併発します。生殖年齢とされる女性のうち約5-8%がPCOSを発症していることが分かっています。
多嚢胞性卵巣症候群の症状
主な症状としては、不正出血や月経不順、無月経、不妊、ニキビ、肥満などの症状が現れます。血中の男性ホルモン値が高くなるため、毛深くなるなどの症状がみられることがあります。
多嚢胞性卵巣症候群の
診断基準
以下に挙げる3項目全て満たした場合に、PCOSと診断されます。(日本産科婦人科学会生殖・内分泌委員会, 2024)
- 月経周期異常(無月経、希発月経、無排卵周期症)
- 多嚢胞卵巣 または AMH高値
- 男性ホルモン値が高い(アンドロゲン過剰症) または 黄体形成ホルモン値(LH)高値
※低用量ピル内服中や排卵誘発剤を内服中の方は、直近1ヶ月以上投与していない時期に、1cm以上の卵胞が存在していないことを確認した上で採血をします。
また、最後の出血から10日以内の場合、必要により再検査となる可能性があります。
多嚢胞性卵巣症候群に併発する
内分泌異常について
高プロラクチン血症
PCOSを発症している方のうち、約10~30%が高プロラクチン血症を合併しているとされています。この場合、出産してもいないのに母乳が分泌される乳漏が起きたり、黄体機能不全が起きて高温期が短くなったりします。また、排卵障害を起こすホルモン異常が起きている状態のため、潜在性高プロラクチン血症の有無を調べることがあります。
インスリン抵抗性
PCOSを発症している場合、血中のインスリン濃度が上昇傾向にあるとされます。これは、インスリンが効きにくくなった状態とされ、将来の2型糖尿病へ進行するリスクがあるほか、妊娠糖尿病にかかりやすくなります。この場合、インスリン抵抗性を改善できるメトホルミンが有効である場合があります。このように、排卵障害の改善には、インスリン抵抗性の有無を検査することが重要です。
多嚢胞性卵巣症候群の
治療法
運動療法(肥満の方は減量)
PCOSの根本的治療は確立されていませんが、病態が糖尿病などの耐糖機能異常と関与があるため、運動療法による減量がある程度の治療効果があると確認されています。BMIが25以上の肥満値の方は、減量を目的とした運動療法を推奨しています。
BMI=体重(kg)÷身長(m)×身長(m)
薬物療法
経口排卵誘発剤
排卵誘発剤の1つであるクロミフェンは、視床下部を刺激する内服薬です。クロミフェンは、エストロゲンに酷似した構造をしているため、視床下部のエストロゲンレセプターと結合します。これによって、視床下部細胞に血中のエストロゲン濃度が低下したと勘違いさせることでGnRHを放出します。それによって下垂体からはFSHが分泌促進され、卵胞発育を促します。
クロミフェンによる副作用
- のぼせ
- めまい
- 乳房の不快感
- 発疹
- 多胎妊娠
- うつ状態
- 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
- 子宮内膜が厚くならない
上記のほか、稀に視力異常や視野異常がみられることがあります。この場合は、服薬をただちに中止します。
性腺刺激ホルモン剤
主に、閉経後女性尿由来の製剤と遺伝子組み換え型の製剤の二種類に区別されます。近年では、遺伝子組み換え卵胞刺激ホルモン(FSH)が一般的になっています。過排卵が起こるため、多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群などのリスクが高くなります。
ホルムストローム療法
黄体ホルモンを用いて人工的に排卵後、月経前の状態を作り、一定期間後に出血させる治療法です。内服が終わると数日後に出血があります。そのため、飲み忘れなど正しく内服しないと不正出血が起こります。黄体ホルモン剤として、デュファストン®、プロベラ®、ヒスロン®、メドロキシプロゲステロン®(ジェネリック医薬品)などを処方しております。
漢方薬
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)・加味逍遙散(かみしょうようさん)・温経湯(うんけいとう)などが使われます。
メトホルミン
糖代謝異常や肥満体型の方に有効なことがあります。
手術療法
腹腔鏡下卵巣多孔術(LOD)
腹腔鏡でレーザーなどを用いて卵巣に小さい穴をたくさん開ける手術です。薬物療法を行っても改善しない場合、LODを検討します。
LODのメリット
- 約50%以上の方が1年以内に妊娠する
- 多胎妊娠とOHSSの合併リスクが抑えられる
- ホルモン異常による症状が改善する
- クロミフェンが効きやすい体質になる
- 自然排卵が起こる確率が約70%
- ゴナドトロピンに対する症状や反応が改善する
- 腹腔内病変の診断と治療が同時にできる
LODのデメリット
- 傷が残る
- 手術による身体的ダメージを受ける
- 手術・入院費用が発生する
- 効果持続期間は3年
- 妊娠合併症や流産を予防できない
- インスリン抵抗性を改善できない
- 作用機序が不明
体外受精
排卵しても妊娠まで辿り着かない場合、また卵胞数が多すぎて治療継続が困難な場合は、体外受精を行います。採卵した受精卵を全て凍結保存することによって、卵巣過剰刺激症候群の問題解決を図ります。体外受精をお考えの方は、専門機関をご紹介させていただきますのでご相談ください。